前書き
初期飛行訓練や野外飛行の訓練を受けている方は既に、ATCの指示に対しての違反や、空域の違反がどれ程簡単に起きてしまうかという事にお気付きではないでしょうか。ソロの際には特に、管制塔から怒られたが何と反応すれば良いか解らなかった、上手い対応が出来ず、事態が更にエスカレートしてしまったなんて言う経験がある方もいらっしゃると思います。もちろん、無線で交信している相手はFAAの職員又は契約で働くATCのプロですので、事態が一定の要件を満たした状態で、FAAが定めるルールによって、報告を行う事が義務付けられています。ルールに従った管制塔の報告によって、後日FAAからのお尋ねが来るという事になります。無線交信上での対話がぎこちなく、完全に違反してしまったかどうか解らないと思うような状況もある中、後日FAAからお尋ねの書類が届く事だって有りです。この記事では、米国ATCにおいてのブラシャー警告とASRS・NASAレポートについて勉強してみましょう。
航空管制→FAA報告の種類
どういった報告が航空管制からFAA機関内に提出されているのでしょうか。先ずは、EORとMORという2つのレポートについて知っておきましょう。MORとは、Mandatory Occurrence Reportの略で、以下の際に管制側から手作業書類でレポートが提出されます。
- 飛行中の航空機と航空機の間隔が失われた場合
- 最終進入コースで航空機の間隔が失われた場合
- クラスB, C, TRSA内でVFR飛行する航空機、VFRでアプローチ練習をする航空機、編隊飛行をする航空機の間隔が失われた場合
- 地上で航空機との間隔が失われた場合
- 地上監視装置からのアラーム
- 地上での航空機と航空機の間隔、航空機と車両の間隔、航空機と歩行者の間隔が失われた場合
- IFRで飛行中の航空機と地面・障害物との間隔が失われた場合
- IFRで飛行中の航空機と航空機の間隔や、航空機と地面・障害物との間隔が失われた場合
- MVA以下での飛行
- 航空管制上の異常
- 航空機と航空機の間隔の問題以外の異常
- TFRや制限空域内での飛行やMOA内での異常
- エアスペース・高度・ルート・スピードの異常
- 地上管制上の異常
- 空港内でATCの指示の意図とは違った動きがあった場合
- 許可無し離着陸や閉鎖されている滑走路へのアプローチ
- アプローチ練習以外、滑走路より0.5マイル内でジェット機クルーによって開始されるゴーアラウンド
- 航空機がホールドショート線を越えた時点での管制側からの離着陸の中止指示
- ILSクリティカルエリアを許可無しに車両や航空機が超えた場合
- 通信障害
- 航空機の通信が確立・維持されなかった為に、ATC側もしくはパイロット側によって別の行動をせざるを得ない場合や、クリアランス無しでの着陸が実行された場合
- 緊急事態・その他飛行に関する危険
- 急患者が出た場合
- 飛行中の航空機の故障により、特別な管制措置が取られた場合
- バードストライク
- 燃料の状況による緊急事態
- パイロットの異常
- VFR飛行の航空機が雲の上から脱出できない状況
- 航空機へのレーザー照射
- ハイジャックやテロ
EORとは、Electronic Occurrence Reportの略で、上記クライテリアに対してコンピューターによる自動監視が行われ、管制官が報告を提出しなくても、コンピューターが自動的に提出する仕組みとなっています。例えば、SID/STAR上においてスピードや高度が正確に守られなかった場合、管制官が見落としたとしても、コンピューターによりデータが自動検出されます。FAR Part 91.123に、ATCクリアランスのコンプライアンスに関する法律が書かれており、上記の仕組み・システムにおいて検出された、パイロット側による高度・速度・ヘディング・コース・エアスペースなどの違反 (パイロット・デビエーション, Pilot Deviation)において安全に影響が及んだ際は、MORもしくはEORの提出になるという事です。次に、管制側からその時点でどのような対応があるのかについて勉強しましょう。
ブラシャー警告
1987年に起きたブラシャー氏の違反ケースの取り扱いにおいて、ブラシャー氏は政府機関 (FAA) から捜査開始の書類を受け取る事になりますが、違反が疑われた時点でATCによる即座な警告が無線通信の中に録音されていなかったという事に注目されました。よって、政府機関はこの告訴を引き下げる事となりました。このケースの対象となったブラシャー氏の名前に基づき、以後、管制側が正式に無線上において発行する事になった違反警告の事をブラシャー警告・ブラシャーコールと呼びます。現在においても、この判例に基づいて、違反の可能性があった件でも、ブラシャー警告が無かったケースは引き下げられます。具体的にブラシャー警告とはATCからの以下の通信を意味します。
"N12345, possible pilot deviation, advise you contact tower/approach/center at ###-###-####"
録音されている無線通信上で、パイロットによるデビエーションの可能性と電話番号を言い渡される事となり、この通信が発信された時点でブラシャー警告の発行となる訳です。通常ならば何も知らずに、着陸後にあせって即電話してしまいがちだと考えますが、ATCに電話する前に、起きた出来事を十分に時間をかけて思い出し、自分のノートに書きまとめる事を考えたいと思います。場合によっては、電話する前に航空弁護士に相談する事を十分に考慮したい所です。ATCに電話した所で、電話上での発言は全て録音されていますので、ここで発言・証言した内容を元に違反が確立する事があるからです。二度目の証言の際に話が違うと、証言の信頼性の問題にも関わってきます。もちろん録音無しでの会話を頼む事もできますが、ATC側が録音無しでの通話を認めてくれるかどうかは別の話です。次に、書きまとめるツール・自分を守るツールとして使える、NASA・ASRSレポートを紹介します。
NASA・ASRSレポートの効力と有効頻度
FAR Part 91.25とAC 00-46Eによって定められているAviation Safety Reporting System (ASRS)は、一般的にNASA Reportとして知られています。名前の通り、宇宙機構のNASAが安全レポートを受理されており、報告された内容は、FAAによる資格に対する取締りを受ける事が無いという事を条件に、安全レポートの提出を促すプログラムです。違反日、もしくは違反に気づいた日から10日以内に提出する事で、資格に対する取り締まりを防ぐ事ができます。取り締まりを防ぐ事が前提ですので、資格失効は防げたとしても、FAAから警告書類を受ける事は有りです。提出はインターネットのウェブサイトから簡単にする事ができます。その後、NASAから手紙で受理証明が送られてきますので、これを保管しておきます。効力を使用する事になった場合、5年に1度有効であり、もし、ASRSレポートにより資格失効を防げた場合、FAAからの最終レポートにその経緯が書面で送られてくる事になります。何か上記のリストに該当するような事があった場合、取締りの防止策として、ASRSレポートを提出するに越したことは無いと考えます。