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前書き

どうやってパイロットになったら良いですか?という質問は、1ヶ月に一度は聞かれる質問です。今回は少し、現実的な話をしたいと思います。日本国内でのプロのパイロットへの道は、もう日常茶飯に知られている事だと思います。航空大学への入学、指定大学のパイロット養成プログラムへの参加、各航空会社の自社養成へ合格、自衛隊パイロットから航空会社への編入、など定番な道が、出版されている様々な航空業界の本に書いてあると思います。

私のように、海外で働く場合は、上記以外の道を辿り、自分の道を切り開いて行かないといけません。ただ単に、飛行機の免許と飛行時間があり、募集要項を満たしていれば、パイロットの職業に就けるというわけではありません。逆に言えば、ピストン機で何万時間乗っても、ジェット機の仕事に就く事は難しいと考えて良いと思います。海外の会社に、パイロット職の願書を出された経験のある方は、既に承知だとは思いますが、多くは、会社から無視をされるように、返事無しというのが現状です。世界的なレベルから見ると、経験のあるパイロットは山ほど存在し、彼らの願書も恐らく、同じ願書の山に提出されていると推測しても、大げさでは無いと思います。

二番目に多い質問は、何処のフライトスクールに行けば良いですか?という質問ですが、海外でプロのパイロットを目指す場合、フライトスクールが、特別にキャリアを左右する物では無いと考えています。私の通ったフライトスクールが、特に良かった訳でも何でもありません。ちなみに私は大学時代に、近所のフライトスクールで、空き時間を作って飛んでいました。大学時代の専攻は、飛行機とは全く関係ない、ビジネスマネージメントとシステムでした。

どの会社のパイロット候補生も、皆、免許と飛行時間を持っているのですから、海外での就職成功の鍵は、他の事に注目する事だと思います。

1000時間後のマイルストーン

キャリア発展において、多くのパイロットが重視している飛行経験値を表す飛行時間。以前投稿した内容に、飛行時間のみが就職の鍵の全てではないと記した上で、飛行時間の最低値を満たす件について簡単に書きました。今回は、具体的な数字と理由を参考に、飛行時間の目安とゴールに注目できるようにしたいと思います。あくまでも、目安ですので、このような数値に達しないと絶対という訳でもありませんが、航空機の保険や業界の標準を司る会社のスタンダードとして知られている最低飛行時間を紹介します。勿論、航空会社の自社養成プログラムや、日本国内でエアラインパイロットを目指す場合は、全く別の話です。

事業用免許取得後~1000時間
経済状況や時期によっては、仕事を見つけるのが大変難しく、必要な経験値を満たした仕事も少ない為、一番悩むと同時に、キャリアの進め方のアイディアも沢山出て来る時期だと感じます。中には、以前紹介しましたCFI以外の進み方を考えられる方もいるのではないでしょうか。中には、軽飛行機から直接B777やGulfstream G550のような機材に行く道のりを想像する方の例もよく耳にする物です。限られてはいますが、世界中に自社養成プログラムが存在する航空会社がある事も忘れてはいけないと感じます。そのような仕事へ願書提出の機会があれば、是非、積極的に提出する時期だと感じます。

500時間という総飛行時間で、VFRのみの運送の仕事ができるようになる最低の時間に達します。またIFR運航のSICになれる飛行時間ですが、こういった機会は多く存在する訳ではありません。貨物、物資類などを運送する仕事の機会も掴める時間ですが、航空運送の業界は、経験者パイロットが存在する業界でもある為、運送パイロット職以外のパイロット職に目を向ける事もあるかと思います。スカイダイバーを乗せるパイロット、グライダーを引くパイロットの仕事もありますが、機体のメンテナンスや仕事の内容、環境を比べ、色々探った結果、フライトインストラクターの資格を活かす仕事に納得する方もいるかと感じます。単発機でも良いので、まずは総飛行時間が必要です。

1000時間~1200時間
1000時間を超してくると、双発機、もし早ければ、タービン機材のパイロットの仕事の機会があるかと思います。1200時間に達すると、チャーター業界でPICになれる時間ですので、必死に総飛行時間を付け続けますが、機種に拘る必要はありませんので、仕事で双発機の時間を少しでも貯め始める時期です。また、この頃になると、総飛行時間以外の飛行時間に注目する頃ではないでしょうか。1500時間に到着する際に必要なクロスカントリー(野外飛行)時間、またInstrument Timeも意識して付ける必要が有ると思いますので、両方の定義も再確認し、確実に時間をログしていく事が重要です。目指すは、総飛行時間1500時間までに、クロスカントリー500時間とInstrument Time 100時間!

1200時間~1500時間
ICAOの定期運送用操縦士(ATP)の基準とされる値、1500時間に向けて必死に、時間を付ける時期です。マルチエンジンの時間を、この辺で100時間~200時間程付ける事ができれば最初のタービン双発機材の仕事に繋がることも珍しくはありません。1500時間になると同時に規制無しのATPが貰えると最高です。もし、チャーター機を既に操縦されている場合、1500時間とATPの取得と同時に、ARGUS と呼ばれるチャーター業界の監査グループが要求するGoldレベルのPIC経験値を満たしますので、ターボプロップ機のPICにアップグレードも可能な時間です。

1500時間~2000時間
2000時間代の飛行時間を持つパイロットが眩しく見えるのもこの時期ではないかと思います。また、アメリカの場合、元同僚だった地元の人は既にフライトスクールを抜け出し、リージョナル航空会社に雇われている…そんな焦りが出てくる時期でもあるかと思います。リージョナル航空へ行く資格があれば、その道に進む方もいるとは思いますが、リージョナル航空へ行かないと先が無いという訳でもありません。この時点でインストラクターを続けたとしても、2500時間の大きなマイルストーンがありますので、それまでに、双発機500時間+を付けられるように努力すると良いと思います。また、業界経験者がその場に少ないと言った意味で、多くのフライトスクールで、小企業、チャーター、又はリージョナル航空に入社するまでの話はあっても、それ以降の具体的なキャリアの話が無い、またキャリアガイダンスがストップするのも、この辺の時間です。

フライトスクールで働いていると、2000時間+のインストラクターが神様に見えますが、航空運送の業界で働き始めると、6000時間~8000時間のパイロットが並に大勢存在し、場合によっては10000時間を超える経験を持つパイロットと働く機会もあります。また、最低値に1500時間~2000時間を設定した仕事は、5000時間+の経験者パイロットも働いている場所という事です。

2000時間~2500時間
次のステップアップの機会を探り始めるのがこの頃ではないでしょうか。また、フライトインストラクターとして続けられている方は、500時間+の双発機時間を目指しているのではないでしょうか。この時点では、リージョナル航空で既に働いている場合、機長アップグレードには飛行時間が足りない、インストラクターをやっている人は、同じ事を教え続けるのが退屈になってくるのでは?ビジネスジェットを飛ばしている人は、もう少しクラスの高い運航をしている会社で働きたいと思うのではないでしょうか。この時点でATPの所持は、キャリアアップに必須です。我慢して最低でも2500時間貯めましょう…

2500時間~3000時間
おめでとうございます。ビジネス航空業界でパイロットとして、エントリーポジションではなく、質の良い企業でパイロットとして働くチャンスが生まれてくる時間です。また、ARGUS PlatinumやWyvern Goldと呼ばれる、業界でもクラスの高い監査内容を満たした運航ができる会社で働く事ができるパイロットの最低総飛行時間が、2500時間とマルチエンジンが500時間です。確実に500時間から1000時間の双発機の時間、また早ければタービン双発500時間+が付いたころでしょう。また、双発タービン機材500時間+で、実機を利用する事無く、シミュレーターのみでPIC機種限定免許の取得が可能になりますので、働く機会がより沢山出てくるはずです。また、今後のキャリアを考える上で、会社選びに慎重になる時期です。リージョナル航空へ行かれた方は、機長アップグレードに備えている頃だと思います。

3000時間~3500時間
PIC機種限定資格で得た機種を基に、次のマイルストーン、3500時間を目指します。豊富なマルチエンジンの時間は勿論、1500時間のタービン双発、早ければ1500時間のジェット時間が付くのもこの頃ではないでしょうか。大型ビジネスジェットの仕事の機会へも願書提出ができる上、3500時間で、ARGUS Platinum会社運航の小、中型ビジネスジェットではPICになる事ができる飛行時間です。また、アジアにてエアラインに就職する機会が訪れ始めるのもこの頃でしょう。

この頃になると、給料も生活が楽になる金額が貰える仕事が近づいてくるのではないでしょうか。又は、以前の仕事場の同僚から誘われた仕事場に行く事だって有りです。個人的には、キャリアはお金だけではないという事に気付かされた時期でした。

3500時間~4000時間
1500時間のジェット時間が付いた上で、ビジネスジェットの機長アップグレード、もしくは、1000時間以上のジェットPICが付いた上で、メジャーエアラインからのお誘いが早ければ訪れる時期です。この時点で、必ずしも、飛行時間だけでは無いという事、飛行機は飛ばせて当たり前、運送パイロットとしての技術やルールも理解できていて当然の事、要は飛行機を飛ばす事ではなく、自分のリーダーシップの質によって行き先が決まってくるという事に気付くのだと感じます。

4000時間~5000時間
メジャーエアラインにパイロットとして入社後、副操縦士として発令。又は、ビジネスジェットの場合、上級のアカウントにパイロットとして発令される時間です。このようなアカウントになると、パイロットは二人とも機長ですので、副操縦、機長、関係ありません。また、大企業の航空部門からの仕事へのお誘いが来るのも、4000時間を過ぎてからです。この時点で与えられた機会は、すべて4000時間までの自分の積み上げ、会社への貢献、自分のリーダーシップのスタイルと質だと思います。自分に合った仕事を理解し、この頃までにキャリア職に就いておくべき時期ではないでしょうか。

5000時間+
キャリアの方向性が落ち着き、飛行時間において、要項を満たしていない仕事は少ないが、キャリアではない別の優先項目、家族など、またその後の退職に向けてプランが重要になってくる時期です。この時点で以前のキャリア選択のミスに気付けば、状況にもよりますが、即効軌道修正するべきです。パイロットの仕事を一つの仕事のみとして捉えず、全体的なキャリアの流れを把握した上での選択が迫られる時期でもあります。気づきが早ければ、4000時間代には既に自分のキャリアスタイルに合った仕事に就いている事だと思います。遅ければ、慌ててキャリア修正という事もよく聞く話です。ここでは話題に触れていませんが、5000時間達成後は、7000時間と10000時間のマイルストーンが有るのも事実です。その頃になってくると、業界間での転職、また別の会社へパイロットとして正社員へ行く事も違った意味でチャレンジになる事も有りです。

以上、パイロットは大勢いる中、限られたメンバーシップを得る為の競争の現実を総飛行時間を置いて書きました。二つ頭の隅に置いておく事は、飛行経験は持って生まれる物ではありませんので、誰もが最初は0時間だったという事。一人一人キャリアを積んでいく道のりは長く、自分で好みの飛行機を持てるような方を除き、殆どの人が、このようなキャリアステップを歩む事になるという事だと思います。一歩一歩確実に前進しましょう。

英語の勉強方法

パイロットを目指し、海外で成功したいという方に、早い時期に気づいて頂きたいのが、日本語ではなく、英語の流暢さが必要だという事です。国際民間航空機関、ICAOが指定する言語は、様々なマニュアルに、「英語、もしくはその国の母国語」という表記がされています。そういった意味で、パイロットとして海外で働くためには、英語をマスターし流暢であれば、一つ目の必須要項は、効率良くクリアしているのです。もちろん、あなたが幾つもの国で、母国語として使われている別の言語を流暢に使える場合を除いての事ですが…

英語教育に関する、私の個人的な経験談を書いておこうと思います。まず、日本でお金をどんなに払っても、利用できる英語教育のサービスは、限られているという事を知って頂きたいと思います。日本国内では、日本語が母国語ですので、正式なESL (English as a Second Language)のクラスを教える事ができる、教育施設が存在しないという事です。ESLは、日本で頻繁に商品として売られている、英会話や英語教室とは違い、英語を、全く読み書き、聞き取りができない人に、ゼロから英語で英語を教える資格を持ったプロが、経験を積んだ上で教える、英語の勉強ではなく、英語の訓練コースなのです。あなたが、日本語を全く読み書き、聞き取りができない人に、日本語を日本語でゼロから教える事ができないのと同様に、英語を母国語とする人間であれば、誰でも英語を教えれるという訳ではありません。

人間が、物心がついた後に、二つ目の言語を取得するというサイエンスは、国外では既に数十年前から、言語のプロによって教えられている事なのです。ESLの対象者は、高校生から大学生や大人まで参加できるクラスです。正式なESLは、アメリカ国内の場合、高校や大学で受講できます。もちろん、レベルの高い高校や大学で受講すれば、雇われている講師も、それだけの経験があるプロですので、質は上がると思います。受講初日に、あなたの英語の読み書き、聞き取り、それから会話のレベルの判定テスト(合格、不合格のテストではありません)があり、そのレベルによってクラス分けがされます。通常、3から4のクラスにレベル分けされます。最高レベルのクラスで教えられる内容は、英語を母国語をする人でも、意外と知らない事だと理解しています。

私が、日本に一時戻り、沖縄で働いていた時期に、国外へ出て就職をしたいというパイロットの方や、今から始めたいという方から頻繁に相談を受けた内容が、航空英語はどうやって勉強したら流暢になるのかという質問でした。私の答えは、航空英語を勉強するのではなく、時間をある程度かけて、ESLで英語の訓練をしてもらえば良いという返答をしたのを覚えています。

仕事探しの鉄則

仕事探しを進められている皆さん、インターネットに掲示されている仕事に注目するのみで、掲載されていない仕事など無いと思われている方いませんか。以下で記載する内容は、私が個人的に知っている範囲のビジネス・アビエーションでの就職形態ですが、他の企業への就職にも同じような考え方が適応できると考えます。

ルール第一

良い仕事は、会社側もインターネットで掲示宣伝する必要が無い為 (外部に飛行機所有の事実さえも公の場に出したくないという場合も有り)、インターネットでアプリケーションを出したのみの結果、採用される事はありません。良い仕事の存在は、飛行機の移動経歴の観察を続ける事で最終的に見つかる事や、人を通して仕事の存在話が飛び込む事などあり、例えインターネットに仕事の宣伝があったとしても(インターネット上に仕事を掲載するのは、雇用法の一部条件を満たす為)、その時点で既に会社側が雇いたい人材が見つかっている場合が多くある。

ルール第二

良い仕事は既に他の人が就いています。列に並ばないと、仕事の機会は巡ってきません。列に並ばせてもらうきっかけ掴みに力を入れたい所だと考えます。

ルール第三

パイロットの仕事を志願する時点で、飛行機は飛ばせて当たり前です。また、飛ばせる人は他にも沢山いますので、仕事上、特殊な技能でもありません。採用選考時に、現存の従業員と一緒に働けるかという所がキーポイントとなります。

ルール第四

今回採用を見送りになったとしても、タイミングの問題というのも有りで、次回、空席があればいつ入社できてもおかしくありません。また、今回採用されなくても、そのような状況に自分を持って行きたい所です。今回でないと入社したくない・入社願望が一時的である会社で自分が働く事は、自分にとって本当に向いている仕事でしょうか。

ルール第五

空輸で利益を上げる会社(搭乗者が他人の飛行機に乗るチャーター)を除き、副操縦士を雇う会社は以外と少ない。ビズジェットを所有し搭乗される方は基本的に安全確保の機会が第一ですので、副操縦士を雇ってお金をセーブするよりも、お金を払って2人機長に乗務させる事が多くあります。また、機長に短期間でアップグレードできるという条件付き(できない場合は退職となる)の職場も多く見られ、以前の経験値が問われます。コーポレートの仕事は特に志願書を出す前に、先ずは空輸で利益を上げる会社などで経験を積み、機長として働く事ができるように準備をします。

ルール第六

カバーレター・履歴書、特にカバーレターは自己紹介ときっかけ作りに重要になってきますので、よく考え、真剣に書きましょう。予想以上に時間かかる事があります。特に、直接会わずにきっかけを作る方は、カバーレターが重要となり、履歴書の内容も面接前に事実確認がされていると思ってください。