ビジュアルスキャンと衝突回避
基礎知識
このレッスンでは、適切なビジュアルスキャンと衝突脅威の回避、飛行中と着陸中の錯覚、およびこれらに巻き込まれる事態への回避方法を紹介します。ビジュアルスキャンと衝突回避は、脅威の可能性をある対象を効果的にスキャンするスキルです。安全であること。安全な空を作る上で、ビジュアルスキャンと衝突の回避は非常に重要です。衝突の脅威を避けるための入念なビジュアルスキャンは、すべてのパイロットの安全にとって最も重要です。
“See & Avoid”概念(FAR part 91, AC 90-48C)
- FARはPart 91に"See & Avoid"という概念を定めた
コンセプト
- IFR又はVFRのいずれに基づいても、航空機を運航する者は常に周囲警戒を怠らないこと
- 他機を避ける行動は互いに共同される作業である場合が多いが、操縦士は常に他機を見て避ける責任を負う(衝突回避のためにATCに頼らないこと)
適切なビジュアルスキャニング(AIM 8-1-6)
- 視界内に収まる全トラフィックの移動に常にアラートを発し続け、また全体を定期的にスキャンして、衝突の恐れがあるトラフィックを確実に検出する
効果的なスキャニング
- 瞬きの感に、中心窩(目の一部、英語ではfovea)と呼ばれる非常に小さな領域だけが、明瞭で鋭く焦点を合わせた像を脳(視覚の中心)に送る能力を持っている
- 昼間および夜間において視覚動作が異なる
- 中心窩を通して直接処理されない他すべての視覚情報は不鮮明に表示されてしまう
- スキャンを効果的に行うには、目の動きを短く規則的に間隔を置くようにして、中央の視野に空(何もないエリア)の連続した領域を表示させるようにする
- 各動きは10度を超えてはならず、少なくとも1秒間は観察する必要がある
周辺視覚
- 衝突の脅威を特定する際に非常に役立つ
- 見かけ上の動きは、多くの場合、周辺の様子との合わせによって検出される
- 夜間におけるビジュアルスキャンな検索は、ほとんどが周辺の様子に依存する
- 中心窩は昼中は非常に良く機能するが、代わりに夜はよく見えない。反対に周辺の様子に対する視力は夜のほうがずっと良いので、暗闇の中で他機を検出する際には有用である
- ビジュアルスキャンが適切でないと、飛行中における衝突リスクが高まる
クリアリング手順
離陸前
- 滑走路に入る前
- 進入中の他機を、正しく視界を確保しつつスキャンすること
上昇&下降
- 継続的なスキャンのために、少しだけ右へ左へとバンクを入れて確認すること
直進&水平飛行
- 周期的にクリアランスを適切に行うこと
- 継続的なスキャンを維持すること (10度感覚で一点を1秒以上集中して見ること)
トラフィックパターン
- 下降時におけるトラフィックパターンへの進入は避ける必要がある
- パターンと同じ高度で進入し、他機が周平んにいないかどうかをスキャンすること
- 機体によっては、構造によって前後のクリアリング確認が妨げられてしまい、既にパターン内で飛行中の別の他機に向かって降下してしまう可能性がある
VOR施設におけるトラフィック
- VORはトランジットが頻繁に行われる領域であるため、多方面から航空機がVORに向かって集中する
- そのため警戒は,VORそれ自体及びその交差点周辺に保たれるべきである
訓練について
- マニューバ訓練を行う前にクリアリングターンを行うこと
- 声に出してその手順を確認すること
- 「左、右、上、下、クリア」
- 声に出してその手順を確認すること
死角について
- 高翼型と低翼型の航空機はそれぞれの盲点を持つ
- 旋回前に他機に対してクリアリングを行うため必要に応じて、翼を一時的に上げ下げして視界を確保する
危険の察知
- 航空機の速度と衝突の危険性についてAC 90~48:距離、速度、時間
- 互いに近づく航空機は最接近してしまう率が非常に高い
- 調査によると、操縦士が他機を見つけ出し、識別し、衝突の脅威と認識し、対応し、飛行機に操作入力するまでに最短でも12.5秒以上かかる
- 非常に危険な領域を認識すること
- 多くの機体はVORの近く、ならびにB、C、D、Eクラスの空域表面周りに集まる傾向がある
- 管制によるコントロール下にあっても警戒が必要(ATCに依存しないこと)
飛行高度の相対的な判断
- 地平線/水平線を参照点として使用すること
- 他機が地平線/水平線より上にある場合は、より高い高度の航路を飛行している可能性がある
- 反対に他機が下方にある場合は、より低い高度の航路を飛行している可能性がある
衝突コースにある対象について
- 相対的な動きを持たないように見える航空機は、衝突コース上にある可能性が高い
- ウインドウスクリーンに横方向または垂直方向への動きが見られず、見かけのサイズだけが大きくなる場合は、ただちに回避動作を行うこと
- 着陸中のエイミングポイントに似ている(オブジェクトは静止したまま、という意味で)
- ウインドウスクリーンに横方向または垂直方向への動きが見られず、見かけのサイズだけが大きくなる場合は、ただちに回避動作を行うこと
正しい行動をとること
- 衝突コースに乗ってしまった場合は、直ちに対処すること
- FARに準拠しつつ、他機に衝突しないよう必要な措置を講じていくことが望ましい
- ROW(Right-of-Way)のルールに精通していること(FAR 91.113)
- FARに準拠しつつ、他機に衝突しないよう必要な措置を講じていくことが望ましい
- 他の操縦士も素早く対応して操縦できると予想すること
- 他機をひとつ発見した場合、さらに別の航空機が同じ地域にいる可能性があるため、最初に発見した機体を視界におさめつつスキャンを継続すること
衝突回避について(AIM 8-1-8)
コックピット内のマネジメント
- 飛行前にチャート図、チェックリスト、マニュアルを調べ、その他の適切なプリフライト計画(無線周波数、装備品の整理)を行うことで、スキャンにより多くの時間を使うことができる
コックピット内の視覚障害
- 航空機の構造(柱、翼など)に起因する死角を見る
- 必要に応じて航空機を操縦する(翼を揺らして視界を確保するなど)
- チャートや、チェックリストなどをダッシュボードに挟んだりして窓などをブロックしないように
ウィンドシールドの状態
- 風防(ウィンドシールド)を清潔に保つこと。汚れていたり、または虫が衝突して出来た痕が増えていくと、視界が大幅に悪くなる
- 特に汚れた風防は、日差しに向かって飛ぶ際、非常に見えづらくなってしまう
より見やすく
- 外部のライトを使うこと
- 夜間においては、夜間視力を維持するため機内内部のライトは最小に設定すること
ATCによる支援
- フライトフォローの支援を、可能であればATCに頼むこと
視力を低下させる状態について(AIM 8-1-6)
体調&ビジョン
- 食事と身体的な健康は、特に暗い時に、操縦士がどれだけ周囲をよく見えるかどうかに影響を及ぼす
- 操縦士の身体や精神の状態に影響を及ぼすものは、視力を低下させる
- 病気、薬、ストレス、アルコール、疲労、感情、低酸素状態など
- ビタミンAとビタミンCの欠乏が、夜間視力を低下させることが示された
- 一酸化炭素中毒、喫煙、アルコール、特定の薬物、酸素不足など他の要因も、夜間視力を大きく低下させる可能性がある
周囲環境の状況
- 薄暗い照明
- 小さな印字と色は、適切な照明が使用できない限り読み取れなくなる
- 航空図、計器、ノート等が読みにくくなる
- 小さな印字と色は、適切な照明が使用できない限り読み取れなくなる
- 闇
- 暗さに適応 – 視覚が光に対してより敏感になる
- 暗さへの完全な適応には、少なくとも30分間暗闇に目を慣らすことが必要
- 暗さに適応 – 視覚が光に対してより敏感になる
夜間視力の障害となる原因について
- 高度5,000’を超える機内圧
- 喫煙と排ガスによって引き起こされる一酸化炭素
- 食事中のビタミンAの欠乏
- 明るい日光の長時間の凝視
過剰な照明
- 例:天蓋、航空機内装表面、雲、水、雪、砂漠の地形から反射した光
- これらはギラギラ光りを生み出し、手に負えない。目を涙で満たし、一時的な失明を招く
- サングラスか何かの遮光装備をなるべく着けて飛ぶこと
ビジュアル
- 煙、霞、埃、雨が付着したまま太陽に向かって飛ぶことは、他機をスキャンして発見する能力を低下させることにつながる
参照できるものが何もない場所による近視
- 目の焦点を合わせるものがない場合、自動的に平面の少し前の点に焦点が合わされます
- これによる近視が原因で、スキャン能力が低下する
- 例:明確な地平線または参照できる線のない、かすんだ空など
- これによる近視が原因で、スキャン能力が低下する
予防
- 日中帯においては、視点を前方遠くにおくよう心掛けて、スキャンを維持すること
- 夜間帯は、どんなに薄暗くても、遠くの光源を探し出し、焦点を合わせること
飛行中の錯覚
空間識失調の予防
- 地上の信頼できる固定点、または飛行機の計器を視覚的に参照することによってのみ防止できる
- 空間識失調に陥った際は計器類を信じること!
傾斜
- 理由
- ゆっくりとバンク姿勢を入力していたのに突然修正操作をしてしまう
- 内耳内の運動感知システムが刺激されなかった
- 錯覚
- これにより反対方向へバンクが入力されているような錯覚を得てしまう
- 結果
- 錯覚状態に陥った操縦士は、機体を元の危険な姿勢(旋回など)に戻した状態を、直進かつ水平飛行姿勢だと考えてしまう
- または、錯覚が収まるまで、知覚された垂直面に傾くことを余儀なくされる
コリオリ現象による錯覚
- 理由
- 長い時間かけて行われている定率旋回操作中、突然頭を動かすと、動きを感知するシステムが刺激を受けるのをやめてしまう
- 錯覚
- これにより全く異なる軸まわりの回転が続いたりまたは移動するような錯覚を得る
- 結果
- 視界を失った操縦士は、錯覚で得た回転の感覚を止めるために、機体を危険な姿勢に操作入力してしまう
- 防止
- 急に頭を動かすな
- 特に、IFR条件下での長時間旋回中には
致命的なスピン
- 理由
-
- スピンからの回復により、動きを検知するシステムが刺激されなくなった
- 錯覚
- 逆の方向にスピンしているような錯覚を得る
- 結果
- 方向感覚を失った操縦士は、機体を元のスピン状態に戻してしまう
致命的ならせん降下
- 理由
- 長時間の定率旋回によって、動きを感知するシステムが刺激を受けなくなり、高度を知覚する機能の喪失
- 錯覚
- 水平姿勢と錯覚したまま下降してしまう可能性がある
- 結果
- 方向感覚を失った操縦士は操縦桿を引き戻し、スパイラル状態を続けてしまい、高度をより多く失ってしまう
体重力による錯覚
- 理由
- 離陸時の加速
- 錯覚
- 急加速の場合は、ピッチアップ姿勢の錯覚を生み出す
- 急減速の場合は、反対にピッチダウンの錯覚となる
- 結果
- 方向感覚を失った操縦士は、機首を下げて、ダイブ姿勢にしてしまう
- 操縦士の意識が鈍いと、機体が機首上げまたは失速の姿勢になる
反転による錯覚
- 理由
- 上昇姿勢から直線・水平飛行への突然の変化
- 錯覚
- 逆方向に転がっていくような錯覚を得る
- 結果
- 方向感覚を失った操縦士は、飛行機を機首下げの姿勢へ急に押し込む
- これが事態を悪化させかねない
- 方向感覚を失った操縦士は、飛行機を機首下げの姿勢へ急に押し込む
エレベータによる錯覚
- 理由
-
- 上り勾配が原因で、急な上方向への垂直加速度
- 下り勾配が原因で、急な下方向への垂直の加速
- 錯覚
- 上向きの垂直加速度は、上昇中のような錯覚を得る
- 下向きの垂直加速度は、下降中のような錯覚を得る
- 結果
- 方向性を失った操縦士は、機体を機首下げの姿勢に押し込む
- 方向性を失った操縦士は、機体を機首上げの姿勢に引き上げる
間違った水平線/地平線
- 理由
- 傾斜した雲の形、隠れた水平線、地上の光と星で広がる暗いシーン、および地上光による特定の幾何パターン
- 錯覚
- 地平線/水平線に正しく位置が合わせされていないように見える
- 結果
- 方向感覚を失った操縦士は、機体を危険な姿勢にセットしてしまう
随意運動
- 理由
-
- 暗闇を飛行することによる
- 錯覚
- 本来ならば固定されているはずのライトが数秒間動き回っているように見えてしまう
- 結果
- 方向感覚を失った操縦士はは、ライトに合わせようと操作入力をしてしまい、機体の制御を失う
着陸時の錯覚
着陸時の錯覚の防止
- 進入中に予測すること
- 見知らぬ空港を視認すること
- 可能な限りグライドスロープまたはVASI/PAPIシステムを使用すること
- 着陸手順の習熟度を最適な水準で維持すること
滑走路幅による錯覚
- 理由
- 通常の滑走路より幅が狭い
- または通常の滑走路より幅が広い
- 錯覚
- 幅が狭いとき – 機体が実際より高い高度に位置しているような錯覚を得る
- 幅が広いとき – 機体が実際より低い高度に位置しているような錯覚を得る
- 結果
- 幅が狭いとき – これを認識しないパイロットは、低い進入を行い、その線上にある障害物に機体をを打ち付けてしまったり、短い着陸をしてしまう危険性を持つ
- 幅が広いとき – これを認識しないパイロットは、高い進入を行い、通常よりも高い位置でフレアをかけて水平姿勢で着陸したり、滑走路をオーバーシュートしたりする危険性を持つ
滑走路と地形傾斜による錯覚
- 理由
- 滑走路、上り傾斜、またはその両方
- 滑走路、下り傾斜、またはその両方
- 錯覚
- 上り傾斜 – 機体が実際より高い高度に位置しているような錯覚を得る
- 下り傾斜 – 機体が実際より低い高度に位置しているような錯覚を得る
- 結果
- 上り傾斜 – これを認識しないパイロットは、より低い進入を行ってしまう
- 下り傾斜 – これを認識しないパイロットは、より高い進入を行ってしまう
代わり映えのしない地形による錯覚
- 理由
- 水面、暗くなったエリア、雪によって特徴の掴みづらい地形などへの着陸による
- 錯覚
- 機体が実際より高い高度に位置しているような錯覚を得る
- 結果
- これを認識しないパイロットは、より低い進入を行ってしまう
大気の状態による錯覚
- 理由
- 風上に雨が降る
- 大気の霞
- 霧の浸透
- 錯覚
- 雨 – 高い高度のように見える錯覚
- 大気の霞 – 距離の錯覚
- 霧への進入 – 機首上げのような錯覚
- 結果
- 雨と霞 – これらの錯覚を認識しない操縦士は、り低い進入を行ってしまう
- 霧 – これを認識しない操縦士は、より急な角度による下降進入を行ってしまう
地上の灯りによる錯覚
- 理由
- 道路などの直線パスに沿った照明、動く列車にも灯り
- 錯覚
- 滑走路と進入灯システムを誤認する錯覚を得てしまう
- 結果
- 操縦士はは、道路、道路、列車上に着陸を試みようとしてしまうかもしれない
- 理由
- 明るい滑走路と進入灯
- 錯覚
- 滑走路までの距離が短いように見える
- 周囲の地形を照らすライトが少ない場合は特に
- 滑走路までの距離が短いように見える
- 結果
- これを認識しないパイロットは、より高い進入を行ってしまう
完成基準
訓練生は、適切なトラフィックスキャンを維持し、他機を一貫してスキャンすることの重要性を理解しています。
レビュー
適切で効率的なビジュアルスキャンを維持し、他のトラフィックを監視することは非常に重要です。錯覚の場合、いつ、どこでそれが起きうるかを理解し、危険な状況に陥るのを防ぐために最善の方法を理解することが極めて重要です。
本レッスンの各項目をレビューすること
- 操縦士の体調と視覚の関係について
- 視覚を低下させる環境条件について
- 前庭系と視覚による錯覚について
- 「See and Avoid」の概念について
- 適切なビジュアルスキャン手順について
- ビジュアルスキャンの手順が悪く、衝突のリスクが高くなるという関係性について
- 適切なクリアリング手順について
- 機体の死角を知ることの重要性について
- 他機との速度差と衝突のリスクとの関係について
- 衝突のリスクが最も大きい状況について
参考資料
- FAA-H-8083-3
- FAA-8083-3-25
- AC 90-48
- AIM
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