パイロン上の八の字旋回
基礎知識
本レッスンはパイロン上の八の字旋回に関連する要素について紹介し、操縦士がACSの基準に基づいた操縦を実行できるようになることを目的とします。パイロン上の八の字旋回は第一次世界大戦で始まりました。これにより、飛行機は翼をターゲットに向け続けて、窓の外に同じ景色を維持できるようになり、砲手がターゲットを破壊できるようになりました。一般的な飛行機の場合、より実用的な用途としては、航空写真を撮影する際、その邪魔にならないようにするための使用される技術です。パイロン上の八の字旋回は高度な操縦であり、操縦士の注意は、選択した任意パイロン周りでの旋回位置を維持することに向けられ、コックピット内の注意は最小限に抑えられます。操縦は、地上の選択された2つのポイントまたはパイロンの周りに8の字パターンで飛行機を飛行させることから成ります。パイロン周りにおいて一定旋回半径を維持する試みは行われません。代わりに、機体は高度と対気速度を調整しながら、飛行機の横軸に平行かつ操縦士の目線が各パイロン上を通過して見えるよう旋回する必要があります。この操縦の目的は、注意を飛行経路と地上の選択したポイントとの間に分配しながら、飛行機を正確に操縦する能力を身に着けることにあります。
軸高度・回転高度(Pivotal Altitude)
一般的な解説
- 飛行機が特定の対地速度で旋回する際、「見通し」参照線が地上の選択されたポイントに投影され、機体がそれを中心に旋回して見えるような特定の高度のこと
- 「見通し」参照点:コックピットから窓を通してパイロンを見るとき、その景色、つまりパイロンが窓の中で同じ場所に位置し続けるようにする参照点のこと
- 機体横軸に平行である
- 翼端から
- 架空のターゲットを中心に捉える
- 翼端から
- 機体横軸に平行である
- よくある間違い - 不適切な「見通し」参照の使用
- ほとんどの前進、低翼機では、航空機は翼端を基準点に置き、そこにターゲットを捉えて保つように調整する
- 機体が軸高度で旋回しているとき、翼端は風景の1点に固定されているように見えるが、軸高度以外の高さである場合、翼端は風景全体の中を移動しているように見える
- 機体が軸高度よりも高い高度で旋回しているとき(これはしばしば通常飛行で起こりうる)、翼端は風景を後ろに流して動いているように見える
- 反対に機体が軸高度よりも低い高度(地面に近い)で旋回しているとき、翼端は風景よりも先んじて前方に移動しているように見える
軸高度は対地速度を基準にしている
- 軸高度の推定
- KNOTS公式:軸高度= TAS^2 / 11.3(TAS =真対気速度)
- TASはフライトコンピュータを使用して見つけることができる
- MPH公式:軸高度= TAS^2 / 15
- 中心高度はバンク角によって変化しない
- パイロンからの距離はバンク角度に影響する
- 旋回全体の進行方向は、直接風下から風上へと連続的に変化するため、対地速度は常に変化する
- これにより、操作全体を通して中心高度が変化する
- 基準線またはパイロン上のポイントを保持するために、必要に応じてこれを調整する
- エレベーターはパイロン位置を維持するための主要な制御装置である
- 高度の変化量は、風が対地速度に与える影響に依存する
- 旋回全体の進行方向は、直接風下から風上へと連続的に変化するため、対地速度は常に変化する
修正操作の入力
- 対地速度が低下すると(向かい風により)、軸高度も下降する
- これにより、修正を加える前の機体は、下降してしまった軸高度よりも高い位置になる
- 翼端は風景の中を後方へ動いて見える
- 新しい軸高度に降下し、パイロンへの参照線を維持する
- 降下するときは、対気速度がわずかに上げるため、軸高度もそれに伴い上がる
- 我々は目標高度に降り、軸高度は我々に向かってくる
修正のやり方:参照点が前方に移動する場合は、前方に操舵圧力を加える
- 対地速度が上がると(追い風)、軸高度も上昇する
- この結果、修正を加える前の機体は、上昇してしまった軸高度よりも低い位置になる
- 翼端は風景を横切って前進するように見える
- 新しい軸高度に到達し、パイロンへの参照線を維持するために上昇操作を入れる
- 上昇する際は、対気速度をわずかに下げているため、軸高度もわずかに下がる(近づく方向に向かう)
修正のやり方:ポイントが後方に移動する場合、後方に操舵圧力を加える
- ピッチは、水平方向に維持しようとしている窓から参照点の「見え方」を制御する
- バンクの調整がその「見え方」の垂直方向の維持を管理する
- 参照点が相対的に窓上部に移動し始めた場合、「見え方」を維持するためにバンク角度を減らす必要がある
- 機体のバンクがが急すぎる
- 「見え方」が想定的に窓下部に移動し始めた場合、「見え方」を維持するためにバンク角度を増やす必要がある
- 機体のバンクが浅すぎる
- 参照点が相対的に窓上部に移動し始めた場合、「見え方」を維持するためにバンク角度を減らす必要がある
修正操作&風速
- 修正は風速に基づく
- 風速が大きいほど、最大および最小の旋回高度の変動が大きくなる
- 風速の増加 = 上昇率の増加
- 強すぎる風は危険になる
- どんどん地面に近づいていく
- 強すぎる風は危険になる
- 風速の増加 = 上昇率の増加
- 機体はパイロンにきわめて近い場所で吹き飛ばされることもあり、バンク角を大幅に増やす必要がある
- 風速が大きいほど、最大および最小の旋回高度の変動が大きくなる
軸高度の計算
- 絶対に正確なものにはならない
- 最も高い位置での軸高度を計算する - TAS + 追い風(最高対地速度)
- 対気速度を取得するために、風向、速度、真対気速度を考慮する
- 最も低い位置での軸高度を計算する
- 真対気速度 - 向かい風(最低対地速度)
- 最高および最低の軸高度を計算すると、操縦中に予想される「見え方」のイメージを掴むことができる
- 地表からの高度が安全でない場合は、操縦を行わないこと
操作開始前に
- 操作前チェックリスト
- エリアに他の機影がないことを確認すること
- 自身の同じ高度、上または下
- 2つのパイロンを選択
- 90°(風に垂直)にある線に沿って地面上の2点を選択する
- パイロンは
- 空き地(緊急の場合使用するので)で、丘や障害物の近くではやらないこと
- 識別が容易であること
- つまり、操作中もとのパイロンに戻ってくる時と、方向を変えて次のパイロンに向かうとき
- 旋回について計画する時間を得られる充分な距離間隔がパイロン間にあり、またその間に不必要な直線かつ水平飛行を引き起こさない
- 約½マイル離れているのが望ましい
- パイロン間は約10〜15秒程度の水平飛行が望ましい
- パイロンのサイズが小さいほど、動きの変化に気づきやすくなる
- よくある間違い - 滑空距離圏内に適切な緊急着陸スポットがないエリアにおいて、パイロンを選択してしまう
パイロン上の八の字旋回の実施
操作の開始
- 推奨進入速度に出力を調整する
- VAに近い
- 軸高度にて設定した対気速度で進入すること
- 風下(の右)に対して45度の角度で進入し、左パイロンの周りを最初に左旋回する
- 左旋回は、右座席の乗客ごしに窓から外を見るよりも、左窓から(見やすいように)ポイントを選び出せる
- パイロン間の中点に向かって飛ぶ
- 進入時の機首方位をメモすること - 完了時の機首方位にもなる
- もし可能であれば、機首方位に備え付けられたバグを使用する
- 風下への進入により、最高の対地速度と最高の旋回高度が得られる
- パイロンが基準線の真上になるまでまっすぐ水平飛行を維持し、その後30〜40°バンクをもってロールする
- 40°を超えないように
- 翼端をパイロンの基部に配置する
- よくある間違い - 進入手順の誤り
- 風の方に向きつつ、風下に45度の位置から入る
操作中
- エレベーターはパイロンの「見え方」を保持するための主要なコントロールである
- 舵の圧力ではなく高度の変化を読み取って、パイロンの基準点を保持する
- よくある間違い - 調整されていない飛行制御
- よくある間違い - パイロンの「見通し」を維持するためにラダーのみ使用してしまう
- 「見通し」の基準を維持するために、ラダーを使用して翼端を前後に無理やり動かそうとしないこと
一回目の旋回
- 進入時において対地速度は最高速度である
- 旋回を続けて、向かい風が強まるにつれて、対地速度は徐々に遅くなる
- 軸高度が降下する
- 修正が行われない場合、翼端はパイロンを基準にして後方へ動く
- 正しい軸高度/基準点を維持するために下降すること
- パイロンが大幅にずれてしまうのを待たずに、一貫して小さな修正を行い続ける
- 下降すると、軸高度が上がり、視覚的な参照位置が修正される
旋回の継続
- 対地速度が増加し始めるため、軸高度が上昇する
- 軸高度を維持し、視覚基準を維持/修正するために登る
- 修正が行われない場合、翼端はパイロンを基準にして前方に移動する
- 上昇すると、軸高度が下がり、視覚的な参照が修正される
- 相対的な風は飛行機をパイロンに向かって押し戻す
- バンク角度は、視覚的な参照を維持するために増やす
- バンク角は軸高度に影響を与えないことを覚えておくこと
- 軸高度を維持し、視覚基準を維持/修正するために登る
パイロン間の移行
- 機体が風下に向かう方向に旋回したらら、ロールアウトを開始する
- 機体は2つ目のパイロン風下側のポイントまで斜めに進む必要がある
- 3〜5秒間、直線飛行と水平飛行を維持すること
- 風に向かうようにして横風による横滑りを補正する
- まっすぐ水平飛行するため
- パイロンが翼端の基準点に揃ったときに反対方向に向かって旋回を開始する
- まっすぐ水平飛行するため
- よくある間違い - 旋回進入と完了の不適切な計画
- よくある間違い - パイロン間の横風による横滑りへの不適切な修正
二回目の旋回
- 進入時における対地速度は最高速度である
- 最高の軸高度
- 旋回を続けると、向かい風が増加し、対地速度が低下する
- 軸高度が下降
- 降下して対地速度の変化を修正する
- 翼端はパイロンを基準にして後方に移動する
- 軸高度が下降
- より多くの追い風に戻ると、対地速度が増加する
- 対地速度の増加=軸高度の増加
- 上昇
- 対地速度を低下させ、飛行機を軸高度に引き上げる
- 相対風が機体をパイロンに近づける
- 視覚的な参照を維持するためにバンク角度を増やす
- よくある間違い - 不十分な計画、オリエンテーション、注意の分配
- 全体のマニューバは、事前の計画(旋回高度)に基づいており、風に関連して自分の方向を定め、航空機、基準点、次に来るパイロン間で注意を分配する
- 地上での重要な高度の計算、空中での風向と基準点の選択、および航空機での調整から始まるしっかりとした計画により、操縦がはるかに簡単になる
- 計画が不十分だと、操作がずさんになる
完了
- 各パイロンの周りで旋回完了後、翼を水平に戻し、進入時の機首方位で操作を完了させる
よくある間違い
- 進入手順の誤り
- 不十分な計画、オリエンテーション、注意の分配
- 調整されていない飛行制御
- 不適切な「見通し」参照の使用
- パイロンの「見通し」を維持するためにラダーのみ適用してしまう
- 旋回進入と完了の不適切な計画
- パイロン間に存在する風による横滑りへの不適切な修正
- 滑走距離内に適切な緊急着陸エリアがないパイロンの選択
完成基準
本レッスンは、訓練生が旋回高度と操縦に関する要因を理解したときに完了します。
成功のポイント
本レッスンの各項目をレビューすること
- 基準点が前方に移動する場合、エレベータに前方圧力を加える
- 基準点が後方に移動する場合は、エレベータに後方圧力を加える
- パイロン上の八の字旋回は、低高度飛行訓練の中で最も挑戦的なものの1つである
- レビュー
- パイロン上の八の字旋回の目的と基本/高度な飛行技能との関係について
- おおよその中心高度を決定する方法について
- 緊急着陸エリアを考慮した適切なパイロンの選び方について
- オリエンテーション、注意の分割、および計画について
- 進入前の機体設定と対気速度について
- 対地速度の変化と操縦のパフォーマンスの関係について
- 操縦士によるパイロンへの「見通し」参照について
- 進入手順について
- パイロンの「見通し」を維持する手順について
- 旋回開始と完了の適切な計画について
- パイロン間に存在する風による横滑りを修正する方法について
- 調整された飛行制御について
参考資料
- FAA-H-8083-3