Vmcのデモンストレーション
基礎知識
このレッスンでは、飛行中のVMCデモンストレーションに関連する要素を紹介します。VMCのデモは、操縦士が制御可能な最低対気速度に近い対気速度またはそれ以下の速度で減速できる場合に、航空機の制御を取り戻すために使用される手順です。全ては安全であること!VMC以下の速度から復行する適切な技術がないと、非常に危険な状態になる可能性があります。
注:両エンジンを作動させながらピッチ姿勢を高い角度に上げてしまい、クリティカルエンジンのパワーを下げてしまうことは避けるようにしましょう。その操作はきわめて危険であり、航空機の制御が失われる可能性があります。
Vmcがどのように働くのか
- 航空機証明において、VMCとは、クリティカルエンジンが突然動作しなくなった状態で機体制御を維持し、バンク角5°以下で定速直進飛行を維持することが可能な対気速度(海面校正済)のことである
- VMCは、あらゆる条件下で一定の速度ではない
- これは、航空機に対して行われた試験で、特定状況に対する一定速度でしかないからである
- VMCはさまざまな要因によって異なる
Vmcに影響を及ぼす要因
風車状態におけるクリティカルエンジン
- VMCは、動作しない側のエンジンによる抗力が増すと、増加する
- VMCはそのため、クリティカルエンジン側において、プロペラ角が低ピッチかつ高RPM設定での風車状態の場合に最も増加する
離陸可能の最大出力
- VMCは動作中のエンジン出力増加に伴って増加する
密度高度
- VMCは高度上昇または空気密度減少と共に減少する
- 高密度高度では推力減少するため、Pファクターの影響からヨーが小さくなる
最も不利な重量
- VMCは重量が減るにつれて増加する
- より重い飛行機は、より安定かつ制御がし易い機体である
- また、飛行機の重量がゼロサイドスリップの確立と維持を助ける
最も不利な重心
- VMCは、CGが後に移動するに従って増加する
- ラダーアームのモーメントが減少するため、その効果も減少する
- プロペラ翼のモーメントアームも増加するため、非対称的な推力差を増加させる
着陸装置の格納
- VMCは、着陸装置が展開されると増加する
- 展開した着陸装置は、VMCを低下させる傾向のある方向安定性を持つ
離陸位置に設定されたフラップ
- 離陸位置に設定されたフラップはVMCを減少させる
- 動作中のエンジンに余分な抗力を発生させてしまう
- これにより、動作していない側のエンジン方向へのヨー傾向が減少する
- 動作中のエンジンに余分な抗力を発生させてしまう
離陸位置に設定されたカウルフラップ
- カウルフラップの展開はVMCを減少させる
- 動作中のエンジンにより多くの抗力を発生させる
離陸姿勢にトリムされた機体
- これは、T字型尾翼、低尾翼、エレベータのタイプならびにトリムの設定が異なるため、航空機によって異なる
離陸&地面効果外
- VMCが増加する
- 地面効果においては、動作中のエンジンに向かってバンクを入れることで、下側の主翼に、より多くの揚力が発生するため、動作をしていない側のエンジンに向かってのローリング傾向が増す
最大5度のバンク角度
- VMCはバンク角に対して非常に敏感である
- 非現実的な低速状態を防ぐために、動作中のエンジンへのバンクは制限される
- バンクにより揚力の水平成分は、非対称的な状態にある推力に対抗するためのラダーを補助する
- 推奨されるバンク角度は機体の製造メーカー毎に設定され、VMCを下げる
- VMCはバンクの増加と共に著しく減少し、またバンクの減少と共に著しく増加する
- 非現実的な低速状態を防ぐために、動作中のエンジンへのバンクは制限される
- テストにおいては、VMCはバンクかく5度以下において、1度ごとに3ノット増加する可能性がある
要因 |
制御 | Vmc | パフォーマンス |
CG(重心) - 前方 |
増加 |
減少 (Good) |
減少 |
CG – 後方 |
減少 |
増加 (Bad) |
増加 |
Weight(重量) – 増加 |
増加 |
減少 (Good) |
減少 |
Density Altitude(密度高度) – 高 |
増加 |
減少 (Good) |
減少 |
Gear(着陸装置) – Up(格納) |
減少 |
増加 (Bad) |
増加 |
Flaps(フラップ) – Up(格納) |
減少 |
増加 (Bad) |
増加 |
Wind milling Prop(風車状態) |
減少 |
増加 (Bad) |
減少 |
Max T/O Power(最大離陸出力) |
状況次第 |
増加 (Bad) |
増加 |
Cowl Flaps Open(カウルフラップ展開) |
増加 (?) |
減少 (Good) |
減少 |
Bank Angle (バンク角度:最大 5度) |
増加 |
減少 (Good) |
増加 |
Airborne/Out of GE(離陸/地面効果外) |
減少 |
増加 (Bad) |
減少 |
Trimmed for T/O(離陸設定トリム) |
どちらの場合も |
|
|
Vmc&制御不能
- 動作中のエンジンから延びるスラストのアームによるモーメントが、ラダーのモーメントを超えると制御が失われる
- ラダーは制御を維持できず、機体は停止したエンジンの方向へ旋回する
- 制御不能状態の判別は、動作中エンジンほ方向へラダーをすべて踏み込み、かつ機体がそれでも動作中エンジンに向かってヨーを続ける状況で認められる
- 視覚的な参照点または機首方位計で確認することができる
- 正確なVMC速度を得るには、適切なピッチとバンクの姿勢を維持する必要がある
- ゼロサイドスリップの条件がない場合、VMCは増加し、方向制御が早く失われる可能性がある
回復操作
- 制御不能なヨーの瞬間、または失速に関連する症状が認識され、回復する
- ピッチ姿勢が小さくなるにつれ、動作中のエンジン出力を小さく絞る必要がある
- スロットルを絞ると、ヨーイングの問題が解決する傾向がある(スラストモーメントの減少による)
- ピッチを下げると対気速度が上がり、ラダーがより効果的になる
- 出力を下げることで、ラダーが克服しなければならないヨーの量を減らし、機首を下げることで、ラダーが生み出す力の量を増やす
- VYSEにおける水平直進飛行姿勢への回復は、動作中のエンジンスロットルが再入力された状態で行われる
- 完了したら、ふたつのスロットルレバーを元の状態に戻す(鋏のふたつの柄が閉じるように)
Vmc&失速速度
- VMCは高度に応じて減少するが、失速速度は変わらない
- 失速速度とVMC間のバッファは高度に従って減少する
- VMCとVSが同じ高度である際、その高度を超えると失速後にVMCが発生する
- VMC=VS(およびそれ以上)の高度は非常に危険である。飛行機は失速し、操縦士は方向制御ができない
Vmcデモンストレーション
- これは、航空機がVMCに近い速度またはそれ以下の速度に減速した場合の手順である
- 動作エンジンの出力を絞り、制御を取り戻すために対気速度を上げなければならない
- 1:操作中に維持する視覚参照点を選択すること
- 2:VSSEよりも約10ノット程度速度を上乗せした対気速度で機体を安定させ、単一エンジンによるゼロサイドスリップ構成を確立させる
- 3:動作エンジンの出力を緩やかに絞る(ラダーを当てて機首方位を維持)
- 4:操作をゆっくり行う(素早い動きは制御しにくい)
-
- よくある間違い:ピッチ、バンク姿勢および対気速度など、不正確なエントリー手順
-
- 5:残りの操作を声に出して簡単に説明する
-
- 「1ノット/秒で対気速度を下げるため、ピッチを上げる。方向制御の喪失や失速を示す最初の兆候が起きたら、動作エンジンの出力を絞り、機首を下げる」
-
- 6:対気速度が1秒当たり約1ノットのブリードを発生させるため、方向制御を維持するためラダーの入力量を増やす
- 7:エンジンが同程度の推力(ヨー)を生成し続ける間は、対気速度が遅くなるとラダーも効果を失うので、基準となる参照点を維持するためにラダーの入力量を増やす必要がある
- 8:そのラダーペダルを完全に奥まで押し込んだ際、機体はVMCの状態となっている
- この速度より遅いと、方向制御が失われる(クリティカルエンジンが作動しないため、ラダーがヨーを制御できない)。
- 視覚参照点を使用して機首方位を維持し、目を外に向ける
- 制御の喪失を認識 – 外の様子を確認しながら、1度ずつ制御不能なヨーイングが始まると同時に、すぐ復行操作に入る
- よくある間違い :差し迫った方向制御の消失を認識できない
- 9:機体が基準となる参照点からヨーイングを始めると、デモ操作から復行操作を行う
- 動作エンジンの出力を絞る
- 緩やかに出力を下げること(素早い動きは制御しにくい)
- 出力を下げることはラダーの入力量も減るということ
- ラダーを減らさないと、飛行機は素早く旋回を始めてしまい、維持していた針路は失われてしまう
- 出力を下げることはラダーの入力量も減るということ
- ラダーを徐々に減らしながら基準となる参照点を維持すること
- 視覚の基準となる参照点の動きを利用して、ラダーの必要な入力量を推し量る
- 10:対気速度を上げるには機首を下げること
- 対気速度を上げると、ラダーはより多くの力を生み出す(より効果的=より多くの制御(低いVMC))
- 11:針路と対気速度を再び確立する(VYSEのピッチによる)
- 12:元の基準点/構成/対気速度に戻る
- 13:アイドル状態のエンジン出力を増やして、通常の飛行を再び確立する
- 必要に応じてラダーを調整し、復行中も参照点を維持する
- よくある間違い :適切な復行手順を実行できない
- よくある間違い :VMCよりも低い速度で方向制御が失われる原因、VMCに影響を及ぼす要因、安全な復行手順に関する知識が不十分
完成基準
操縦士はVMCを理解し、VMCデモンストレーションを十分に実行できます。
よくある間違い
- VMCより低い速度で方向制御が失われる原因、VMCに影響を及ぼす要因、安全な復行手順に関する不十分な知識
- ピッチ姿勢、バンク姿勢、対気速度などの不適切なエントリー手順
- 差し迫った方向制御の喪失を認識できない
- 適切な復行手順を適用できない
成功のポイント
以下についてレビューすること
- VMCよりも低い空気速度での方向制御の損失、VMCに影響を及ぼす要因、安全な回復手順の原因について
- 機内構成の確立、エンジン出力制御の調整及びトリムは、デモに先立って行うこと
- 動作不良エンジンを抱えた状態でのピッチ姿勢と対気速度の確立について
- 最高パフォーマンスのために必要なバンク姿勢の確立について
- 方向制御喪失デモンストレーションのためのエントリー手順について
- パイロットが方向制御の損失を認識できる兆候について
- 適切な復行手順について
参考資料
- FAA-H-8083-3
- POH/AFM
コメント欄を読み込み中