飛行原理ーエンジン一基停止時

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ACS/PTS・オペレーション分野 FAA 陸上多発ー飛行機
多発機の操作
該当する資格 自家用操縦士, 事業用操縦士, MEI

基礎知識

このレッスンでは、双発機における単一エンジン操縦に関する要素を紹介します。追加のエンジンは、より良い性能と速度を得るのに役立ちますが、一方のエンジンが故障すると、単発機におけるエンジン故障とは大きく異なる状況が生じます。故障が発生した場合は、操縦士はそれに係る要素を理解し、飛行機の制御を維持することが必要です。

クリティカルエンジン

  • 定義:航空機の性能又は操縦性に最も悪影響を及ぼすエンジンのこと
  • 従来の双発機では両方のプロペラが共に時計回りに回転するので、左側がクリティカルエンジンになる
    • 他の双発機では、対向回転プロペラを持つ(それぞれ時計回りと反時計回りをする左右エンジン)ためクリティカルエンジンの問題を克服した
  • 従来の双発機においては、左エンジンが重要である4つの要因が存在する
    • Pファクター、加速プロペラ後流、らせん状プロペラ後流、トルク
      • ゴロ合わせはPASTP-Factor、Accelerated Slipstream、Spiraling Slipstream、Torque

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P - ファクター

  • 回転する各プロペラにおいて、下降する側の翼(ブレード)は、上昇側の翼よりも推力が大きい
    • そのため従来の双発機では、推力中心が各エンジンの右側の翼にオフセットされている
  • このとき、左側よりも右側のエンジンの方が、推力中心と縦軸の間の距離(アーム)が長い
    • 距離やアームが長いほど、力点も大きくなる
  • 右側のエンジンに不具合が発生した場合、Pファクターに関連する力点は、左側のエンジンで発生した場合ほど大きくない
  • 左側のエンジンに不具合が発生した場合、Pファクター(右側からの)によるヨーの影響が最大になるため、左側がクリティカルエンジンとなる

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加速プロペラ後流

  • Pファクターにより、各エンジン右横の翼部分に大きな空気流(より大きな揚力)が発生する
  • 左側のエンジンよりも右側のエンジンの方が、上記による揚力と機体中央縦軸間との距離(アーム)が大きい
    • 距離やアームが大きいほど、力点も大きくなる
  • 上記により、左側のエンジンに不具合が発生した場合、右エンジンの場合よりも強いローリング動作が生じるため、左側がクリティカルエンジンとなる

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捻じれプロペラ後流

  • 各プロペラの背後に空気の渦巻き状のスリップストリームが生成される(図参照)
  • 左側のエンジンによるスリップストリームが舵左側に当たり、左旋回傾向が生じる
    • 反対に、右側のエンジンによるスリップストリームは航空機に影響を与えない
  • 右側のエンジンに不具合が発生した場合、左側のエンジンによるスリップストリームは、不具合エンジンへのヨー傾向に対していくらかのカウンターとなる
  • 左側のエンジンに不具合が発生した場合、飛行機は不具合エンジンに向かって無制限にヨー傾向となるので、左側がクリティカルエンジンとなる

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トルク

  • トルクはニュートンの第3法則、作用反作用に基づいている
  • プロペラが時計回りのトルクで回転すると、機体は反時計回りに回転する
    • 右側のエンジンに不具合が発生した場合、機体は右へ旋回をはじめるが、トルクはいくらかの力を相殺する
    • 左側のエンジンに不具合が発生した場合、トルクは左に向かって旋回を促進する
  • 左側の不具合は、制御に最も悪影響を及ぼすトルクのため、左側がクリティカルエンジンとなる

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VMCデモンストレーション

  • VMCは、クリティカルエンジンが突然動作不能となった際、そのエンジンを抱えた状態で機体制御を行うことができ、また5°以下のバンク角による修正で、定速直進飛行を維持できる対気速度(海面校正済)のことである
  • Vmcは、すべての条件に対応できるような一定の対気速度ではない
    • これは、航空機の認証中にテストされた、非常に特殊な状況に対しては、一定の速度が存在する
  • VMCはさまざまな要因によって異なる

VMCに影響を及ぼす要素

風車状態におけるクリティカルエンジン

  • VMCは、動作しない側のエンジンによる抗力が増すと、増加する
    • VMCはそのため、クリティカルエンジン側において、プロペラ角が低ピッチかつ高RPM設定での風車状態の場合に最も増加する

離陸可能最大出力

  • VMCは動作中のエンジン出力増加に伴って増加する

密度高度

  • VMCは高度上昇または空気密度減少と共に減少する
    • 高密度高度では推力減少するため、Pファクターの影響からヨーが小さくなる

最も不利な重量

  • VMCは重量が減るにつれて増加する
    • より重い飛行機は、より安定かつ制御がし易い機体である
    • また、飛行機の重量がゼロサイドスリップの確立と維持を助ける

最も不利な重心

  • VMCは、CGが後に移動するに従って増加する
    • ラダーアームのモーメントが減少するため、その効果も減少する
    • プロペラ翼のモーメントアームも増加するため、非対称的な推力差を増加させる

着陸装置の格納

  • VMCは、着陸装置が展開されると増加する
    • 展開した着陸装置は、VMCを低下させる傾向のある方向安定性を持つ

離陸位置に設定されたフラップ

  • 離陸位置に設定されたフラップはVMCを減少させる
    • 動作中のエンジンに余分な抗力を発生させてしまう
      • これにより、動作していない側のエンジン方向へのヨー傾向が減少する

離陸位置に設定されたカウルフラップ

  • カウルフラップの展開はVMCを減少させる
    • 動作中のエンジンにより多くの抗力を発生させる

離陸姿勢にトリムされた機体

  • これは、T字型尾翼、低尾翼、エレベータのタイプならびにトリムの設定が異なるため、航空機によって異なる

離陸&地面効果範囲外

  • VMCが増加する
  • 地面効果においては、動作中のエンジンに向かってバンクを入れることで、下側の主翼に、より多くの揚力が発生するため、動作をしていない側のエンジンに向かってのローリング傾向が増す

最大5°のバンク角

  • VMCはバンク角に対して非常に敏感である
    • 非現実的な低速状態を防ぐために、動作中のエンジンへのバンクは制限される
      • バンクにより揚力の水平成分は、非対称的な状態にある推力に対抗するためのラダーを補助する
      • 推奨されるバンク角度は機体の製造メーカー毎に設定され、VMCを下げる
      • VMCはバンクの増加と共に著しく減少し、またバンクの減少と共に著しく増加する
  • テストにおいては、VMCはバンクかく5度以下において、1度ごとに3ノット増加する可能性がある

  

要素

操作性

Vmc

パフォーマンス

CG(重心) – 前方

増加

減少(Good)

減少

CG – 後方

減少

増加(Bad)

増加

Weight(重量) – 増加

増加

減少(Good)

減少

Density Altitude(対気密度) – 高

増加

減少 (Good)

減少

Gear(着陸装置) – 格納

減少

増加(Bad)

増加

Flaps(フラップ) – 格納

減少

増加(Bad)

増加

Wind milling Prop(風車状態)

減少

増加(Bad)

減少

Max T/O Power(最大離陸出力)

場合による

増加(Bad)

増加

Cowl Flaps Open(カウルフラップ展開)

増加(?)

減少(Good)

増加

Bank Angle (バンク角度:最大 5o)

増加

減少(Good)

増加

Airborne/Out of GE(離陸/地面効果外)

減少

増加(Bad)

減少

Trimmed for T/O(離陸設定トリム)

どちらの場合もある

 

 

VMC&制御不能

  • 動作中のエンジンから延びるスラストのアームによるモーメントが、ラダーのモーメントを超えると制御が失われる
    • ラダーは制御を維持できず、機体は停止したエンジンの方向へ旋回する
  • 制御不能状態の判別は、動作中エンジンほ方向へラダーをすべて踏み込み、かつ機体がそれでも動作中エンジンに向かってヨーを続ける状況で認められる
    • 視覚的な参照点または機首方位計で確認することができる
  • 正確なVMC速度を得るには、適切なピッチとバンクの姿勢を維持する必要がある
    • ゼロサイドスリップの条件がない場合、VMCは増加し、方向制御が早く失われる可能性がある

回復操作

  • 制御不能なヨーの瞬間、または失速に関連する症状が認識され、回復する
  • ピッチ姿勢が小さくなるにつれ、動作中のエンジン出力を小さく絞る必要がある
    • スロットルを絞ると、ヨーイングの問題が解決する傾向がある(スラストモーメントの減少による)
    • ピッチを下げると対気速度が上がり、ラダーがより効果的になる
    • 出力を下げることで、ラダーが克服しなければならないヨーの量を減らし、機首を下げることで、ラダーが生み出す力の量を増やす
  • VYSEにおける水平直進飛行姿勢への回復は、動作中のエンジンスロットルが再入力された状態で行われる
  • 完了したら、ふたつのスロットルレバーを元の状態に戻す(鋏のふたつの柄が閉じるように)

VMC&失速速度

  • VMCは高度に応じて減少するが、失速速度は変わらない
    • 失速速度とVMC間のバッファは高度に従って減少する
  • VMCとVSが同じ高度である際、その高度を超えると失速後にVMCが発生する
    • VMC=VS(およびそれ以上)の高度は非常に危険である。飛行機は失速し、操縦士は方向制御ができない

離陸中または直後におけるエンジン故障

  • 離陸や着陸復行の間は、エンジンが機能停止する恐れのある最もクリティカル時間である
    • 飛行機は低速で、地面に近づいており、フラップやギアが展開されている可能性もある
      • そして高度と時間は最小限の状態
  • エンジンの完全な機能停止障害は、次の3つのシナリオパターンに要約できる

着陸装置展開状態(依然脚が出ていれば、滑走路は残っており着陸すること)

  • 着陸装置の格納を選択する前に不具合が発生した場合は、両スロットルを閉じて残滑走路に着地すること

着陸装置格納状態、単発エンジンによる不十分な上昇

  • 正面にいかなるものがある場合にもかかわらず、着陸は絶対に完遂されなければならない
  • VYSEでの降下は、接地までの時間を延ばすことが可能である

着陸装置格納状態、単発エンジンによる十分な上昇

  • 飛行を継続するための手順に従うべきである
    • 制御
    • 構成フルパワー、着陸装置格納、フラップ格納、識別、検証、修正、フェザー
    • 上昇
    • チェックリスト(時間がある場合)
  • 滑走中にエンジンが失われた場合は、出力ををアイドルに抑え、方向制御を維持する
  • ロテーション後にエンジンが失われ、着陸装置が展開した状態の場合は、制御を維持し、前方向に着陸する
  • ロテーション後にエンジンが失われ、着陸装置が格納状態の場合は、制御を維持し、着陸操作に戻れるように再設定を行うこと

完成の基準

操縦士は単発機と多発機の違い(エンジン故障・クリティカルエンジン・Vmc)を理解します。

成功のポイント

以下についてレビューすること

  1. 「クリティカル·エンジン」の意味について
  2. VMCに影響を及ぼす密度高度について
  3. 制御に影響を及ぼす飛行機の重量と重心について
  4. VMCに影響を及ぼすバンク角について
  5. VMCと失速速度の関係について
  6. 方向制御が失われる理由について
  7. 方向制御が失われる兆候について
  8. 適切なピッチとバンクの姿勢を維持することの重要性と、均衡のとれた適切な調整について
  9. 方向制御の回復手順について
  10. 計画、決定および単一エンジンの操作を含む、離陸中のエンジン故障について
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